遺族厚生年金とは・・・(厚生年金)厚生年金加入の遺族年金(補償)給付の基礎知識
遺族基礎年金(国民年金)とは違い、子供であることや、子供のある妻に限定していない遺族厚生年金の受給要件。 そういう点ではいずれ受給する可能性が高く、どうしたらもらえるのか? ということは知っておいたほうがよいでしょう。
遺族厚生年金の支給要件
遺族厚生年金の支給要件は、「亡くなった方がどういう方か」ということと、「遺族がどのような立場に人か」ということに分けられます。
亡くなった人の要件
遺族厚生年金の支給要件は、短期要件と長期要件とに分けられます。 前者は、厚生年金に加入して間もない方の死亡、後者はその逆に年金をもらえるくらい長く厚生年金に加入していた方の死亡です。短期要件か長期要件かによって、年金額の計算は異なるものとなります。
短期要件
1・厚生年金の被保険者が死亡した時(現役)
2・厚生年金の被保険者であった者が、被保険者の資格喪失後に被保険者であった間に初診日がある傷病により、その初診日から起算して5年を経過する日前に死亡した時
3・障害等級1級または2級の障害厚生年金の受給権者が死亡したとき
長期要件
・老齢厚生年金の受給権者または、受給資格期間を満たしている者が死亡した時
※老齢厚生年金の受給資格があるということは、イコール老齢基礎年金の受給要件を満たしているということになりますので、保険料納付済期間と合算対象期間を合わせて原則25年以上(短縮特例あり)あるということになります。
短期要件1と2の場合の保険料納付要件
短期要件で遺族厚生年金を受給する場合には、一定の期間保険料の未納がないことなど、保険料の納付に関して一定の条件が決められております。(保険料納付要件と言います)
保険料納付要件の原則
死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間があるときは、当該被保険者期間にかかる保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2以上を満たしていること。
保険料納付要件の特例
死亡日が平成28年3月31日以前で遺族厚生年金を支給する場合は、死亡日の前日において死亡日の属する月の前々月までの1年間(死亡日に国民年金の被保険者でなかった者は、死亡日の属する月の前々月以前の直近の国民年金の被保険者期間にかかる月までの1年間)のうちに保険料納付済期間と保険料免除期間以外の国民年金の被保険者期間(つまり保険料滞納期間)がなければ保険料納付要件は満たされる。ただし、当該死亡に掛かるものが死亡日において65歳以上である時を除きます。
遺族厚生年金を受け取れる遺族の範囲
遺族厚生年金を受けることができる遺族の範囲は、死亡した被保険者または被保険者であった者の死亡の当時、その者により「生計を維持」されていたもので、死亡したもの「配偶者、子、父母、孫、祖父母(兄弟姉妹は入りません)」で、妻以外には年齢等の条件があります。
生計を維持していたものとは、被保険者等の死亡の当時、その者と生計を同じくしていたものであって、年間850万円以上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外のものを言います。
なお、妻は生計維持のみが要件で、16歳でも65歳でも80歳でも要件を満たします。(30歳未満の妻に対する遺族厚生年金は、5年間の有期給付)
遺族の年齢等の条件
妻
年齢要件なし。(30歳未満の妻に対する遺族厚生年金は、5年間の有期給付)障害要件不要。苗字が違っていてもかまいません。事実上婚姻関係と同様の事情にある者(内縁関係にある者)も含む。
子・孫
死亡の当時、18歳に達する日以後の最後の3月31日までの間にあるか、または20歳未満で障害等級の1級若しくは2級に該当する障害の状態にあり、且つ、現に婚姻をしていないこと。
被保険者、または被保険者であった者の死亡の当時、胎児であった子が出生した時は、将来に向かって、その子は被保険者または被保険者であった者の死亡の当時、そのものによって生計をいじしていた子供とみなされ、遺族の範囲に含まれる。
夫・父母・祖父母(義父母は入らず)
死亡の当時55歳以上であること。 ただし、60歳になるまでは支給停止。(今はあまり関係ありませんが、平成8年4月1日前に被保険者等が死亡していた場合には、障害等級1級または2級に該当する障害の状態にあること。)
遺族厚生年金を受給する遺族の順位
1・配偶者、子
2・父母
3・孫
4・祖父母
妻と子が同順位の時
子に対する遺族厚生年金は、妻が遺族厚生年金の受給権を有する期間、支給停止されます。
例外として、妻が国民年金法による遺族基礎年金の受給権を有さず、子が当該遺族基礎年金の受給権を有する時は、妻に対する遺族厚生年金は支給停止され、子に遺族厚生年金が支給されます。
例えば、死亡した夫と妻が同居して暮らし、子は祖母と暮らしていたケースの場合、夫が亡くなると妻は「生計を同一にする子のない妻」となって遺族基礎年金の受給要件を満たしませんので、子供に遺族基礎年金が支給されます。そのような場合は遺族厚生年金も子供に支給されます。
妻夫と子が同順位の時
夫に対する遺族厚生年金は、子が遺族厚生年金の受給権を有する期間、支給停止されます。
最先順位の者だけが受給権者
上記同順位の場合は複数が受給権者となりますが、基本的に遺族厚生年金を実際に受給することができるのは最先順位者のみで、その受給権は転給(上位順位者の受給権が消滅し、下位の者に受給権が転がってくること。例えば労災がそのしくみ)しません。
遺族厚生年金を受け取ることができる遺族とならない場合とは、「父母ならば、配偶者と子」が、「孫ならば、配偶者と子、または父母」が、「祖父母ならば、配偶者と子、父母、または孫」がそれぞれ受給権を取得した場合です。
また、父母、孫、祖父母の有する遺族厚生年金の受給権は、被保険者または被保険者であった者の死亡の当時胎児であった子が出生した時は消滅します。
例えば、収入がかなり多く、亡くなった夫に生計維持されていないような妻が子供を産むケースで、父母に行っていた遺族厚生年金の受給権が、妻が子を産むことによって、子供が遺族厚生年金の受給権を有することになりますので、父母の受給権は消滅(失権)することになるのです。
遺族厚生年金の裁定請求
遺族厚生年金は、「国民年金・厚生年金保険・船員保険遺族給付裁定請求書」を年金事務所に提出することによって裁定請求を行ないます。
遺族厚生年金の裁定請求
遺族厚生年金の計算は、短期要件か長期要件かによって計算方法が異なりますが、基本形は次のとおりです。
(平均標準報酬月額×7.5/1,000×平成15年3月までの被保険者期間の月数
+平均標準報酬額×5.769/1,000×平成15年4月以後の被保険者期間の月数)
×3/4×物価スライド率
短期要件の場合
給付乗率の読み替えなし。
被保険者期間の月数300月を最低保障。
長期要件の場合
給付乗率の読み替えあり。
被保険者期間の月数は実期間で計算。
短期要件・長期要件の両方に該当する場合
特に申し出なければ短期要件として計算されますが、実際には有利な方の額が支給されています。
中高齢の寡婦加算
遺族厚生年金の受給権者が妻であり、次のいずれかに該当するときは、40歳以降65歳までの一定期間、中高齢の寡婦加算(平成24年度589,900円)が支給されます。
ただし、長期要件によって遺族厚生年金を受給する場合には、死亡した者の厚生年金の被保険者期間が240月以上(中高齢の特例あり)であることが要件になります。
・遺族厚生年金の受給権を取得した当時、40歳以上65歳未満であって、子供がなく遺族基礎年金を受けられない妻。
・40歳に達した当時、遺族基礎年金の支給要件に該当する子と生計を同じくしていた妻で、子が遺族基礎年金の支給要件に該当しなくなったことにより、遺族基礎年金を受けられなくなった者。
経過的寡婦加算
中高齢の寡婦加算は65歳までの支給ですが、それを過ぎると今度は妻自身の老齢基礎年金が支給されることになります。よって中高齢の寡婦加算の役割も終わりとなりそうなものですが、そうはいきません。
歴史的背景として、昭和61年3月までは国民年金は任意加入でしたので、会社員の妻は国民年金に加入していない人が多く存在していました。その後昭和61年4月からは第3号被保険者制度ができ、妻自身の老齢基礎年金が増えることとなるのですが、かわいそうなのは第3号被保険者ができた時に、すでにある一定以上の年齢に達していた妻です。
そこで昭和61年4月当時約30歳以上だった人、昭和31年4月1日以前生まれの人を対象に、生年月日に応じた金額を「経過的寡婦加算」として支給することになりました。
ただし、長期要件によって遺族厚生年金を受給する場合には、死亡した者の厚生年金の被保険者期間が240月以上(中高齢の特例あり)であることが要件になります。
具体的な計算式。(平成24年度のケース)
経過的寡婦加算=中高齢の寡婦加算−老齢基礎年金×(生年月日に応じた率)=589,900円−786,500×(生年月日に応じた率)
経過的寡婦加算額の早見表(平成24年度価格)
生年月日 | 加算額 |
大正15年4月2日〜昭和2年4月1日 | 588,900円 |
昭和2年4月2日〜昭和3年4月1日 | 559,700円 |
昭和3年4月2日〜昭和4年4月1日 | 531,600円 |
昭和4年4月2日〜昭和5年4月1日 | 505,600円 |
昭和5年4月2日〜昭和6年4月1日 | 481,400円 |
昭和7年4月2日〜昭和8年4月1日 | 458,800円 |
昭和7年4月2日〜昭和8年4月1日 | 437,700円 |
昭和8年4月2日〜昭和9年4月1日 | 417,900円 |
昭和9年4月2日〜昭和10年4月1日 | 399,200円 |
昭和10年4月2日〜昭和11年4月1日 | 381,700円 |
昭和11年4月2日〜昭和12年4月1日 | 365,200円 |
昭和12年4月2日〜昭和13年4月1日 | 349,600円 |
昭和13年4月2日〜昭和14年4月1日 | 334,800円 |
昭和14年4月2日〜昭和15年4月1日 | 320,800円 |
昭和15年4月2日〜昭和16年4月1日 | 307,600円 |
昭和16年4月2日〜昭和17年4月1日 | 295,000円 |
昭和17年4月2日〜昭和18年4月1日 | 275,000円 |
昭和18年4月2日〜昭和19年4月1日 | 255,600円 |
昭和19年4月2日〜昭和20年4月1日 | 236,000円 |
昭和20年4月2日〜昭和21年4月1日 | 216,300円 |
昭和21年4月2日〜昭和22年4月1日 | 196,700円 |
昭和22年4月2日〜昭和23年4月1日 | 177,000円 |
昭和23年4月2日〜昭和24年4月1日 | 157,300円 |
昭和24年4月2日〜昭和25年4月1日 | 137,700円 |
昭和25年4月2日〜昭和26年4月1日 | 118,000円 |
昭和26年4月2日〜昭和27年4月1日 | 98,300円 |
昭和27年4月2日〜昭和28年4月1日 | 78,700円 |
昭和28年4月2日〜昭和29年4月1日 | 59,000円 |
昭和29年4月2日〜昭和30年4月1日 | 39,400円 |
昭和30年4月2日〜昭和31年4月1日 | 19,700円 |
昭和31年4月2日 以後 | - |
妻が65歳以上において夫が亡くなった場合には
65歳未満であれば中高齢の特例の受給要件を満たしていたという場合、65歳以上であっても妻の遺族厚生年金に経過的寡婦加算が加算されることになります。(この場合は中高齢の寡婦加算がなくても、いきなり経過的寡婦加算が支給されるということです。)
遺族厚生年金の失権
遺族厚生年金の受給権は、受給権者が次のいずれかに該当したときに失権(受給権が消滅)します。
・死亡したとき |
再婚と遺族厚生年金
夫が亡くなり妻と子(18歳未満)だけになった場合を例に、再婚した場合の遺族厚生年金(遺族基礎年金)の権利関係をみていきます。
ノーマルな遺族年金の形
一つ屋根の下で暮らしていた、夫、妻、子供。 夫が亡くなり、妻と子供が遺族厚生年金、遺族基礎年金の受給権を取得することになりますが、この場合、子供の遺族年金は両方とも支給停止。妻に遺族年金が支給されることになります。
妻が再婚した場合
妻が再婚し、子供と共に新しい夫と暮らす場合、妻の遺族年金は、遺族厚生年金、遺族基礎年金両方共に失権します。「婚姻をしたとき」は失権事由だからです。 そして、子供の遺族年金は、遺族基礎年金については「その子の父又は母があるときには支給停止」という決まりがありますので失権はしませんが支給停止です。対して遺族厚生年金にはそのような決まりはありません。このケースでは妻に対する遺族厚生年金の受給権が消滅したため、同順位の問題もなく、子供に対して遺族厚生年金だけが支給されるということになります。
さらに、子供が養子縁組をした場合
遺族基礎年金は「その子の父又は母があるときには支給停止」という決まりがありますので、引続き支給停止です。しかし、遺族厚生年金は養子縁組をしても失権または支給停止になりません。なぜなら、失権事由には「直系血族および直系姻族以外の者の養子となったとき」とありますが、再婚相手は直系姻族に当たるため、失権事由に該当しないからです。